本作品について

Introduction/はじめに

桜井ショージ 63歳。職業 建設作業員。杉山タカオ 64歳。職業 造園業。 何かにつけて2人は対照的。2人はライバル。そして共通点は、ごくフツーのおじさん…? いや違う。フツーのおじさんになりたかったのに、なれなかった。
ショージとサダオ

布川事件の強盗殺人犯とされ、逮捕された当時、2人はやんちゃ盛りの20歳と21歳。無茶もしたし、品行方正な青年では確かになかったけれど…。1996年11月12日と14日。それぞれ仮釈放されたショージとタカオは29年ぶりに塀の外に出る。ある縁がきっかけで、「殺人犯」というレッテルを背負いながらも、沈痛や悲壮さをあまり見せない、なんとも前向きな2人に興味を持った映像ディレクターの井手は、仮釈放から2010年の夏までを、そのカメラに収めた。


本業との両立の困難さから途中、間が空いたことも、記録を止めようかと思った時期もあったというが、2008年、東京高裁が2人の裁判のやりなおしを支持したことを機に、映画の完成を目指して、2年の歳月をかけて編集。重いテーマであるにもかかわらず、ひとつひとつの心の機微を救い上げるような丁寧な映像と、ときにコミカルでさえあるユーモアをテンポよく織り交ぜ、158分という長編ながらも、エンドロールまで一気に魅せる力を備えた告発ものとは一線をかくした良質なドキュメンタリーへと仕上げた。


大きなプレッシャーを背負いながらも、フツーの人生を歩むため、自らの無罪を勝ち取るために、ひとつひとつハードルを乗り越えていく2人のポジティヴな姿勢にどれだけ勇気づけられるだろうか。14年分の映像が投げかけるメッセージを、きっと、それぞれが、それぞれの方法で感じるだろう。  冤罪、自白、日本の警察や検察、司法制度、仕事、幸せ、怒り、笑い、フツーに暮らすということ…、実に「人間」臭いショージとタカオ。愛すべき2人のおじさんの「めげない姿」から、あなたは何を見るだろう。どんなことがあろうとも、めげず、あきらめず、立ち止まらなければ、人生は最後の瞬間まで続くのだ。

AWARD/受賞歴

受賞歴

★2010年 第84回 キネマ句報文化映画部門ベスト・テン第1位
★2011年 第20回 日本映画批評家大賞 ドキュメンタリー作品賞
★2011年 文化庁映画賞 文化記録映画大賞
★2011年 第66回 毎日映画コンクール ドキュメンタリー映画賞
★2011年 釜山国際映画祭 アジア部門最優秀ドキュメンタリー映画賞
★2011年 ドバイ国際映画祭 ベストヒューマンライツフィルム賞
★2012年 第15回 上海国際映画祭 MITAドキュメンタリー日本招聘作品
受賞歴

STORY/ストーリー

映画はショージとタカオが仮釈放で刑務所から出て来るところから始まる。

ショージとタカオは布川事件と呼ばれる強盗殺人事件の犯人となって、20歳のときから29年間獄中にいた。「犯人じゃない!」獄中から、そして社会に戻って来てからも2人は無罪を訴え、裁判のやり直しを求め続ける。2人を偶然知ったディレクターの井手は、自分のカメラでその日常を記録し始める。券売機で電車の切符を買えないタカオ。廃屋同然になった我が家に呆然とするショージ。30年近くシャバと隔絶していた2人にとって、時代の変化は大きかった…。


仕事を見つけたい、彼女が欲しい…普通のおじさんになるためにハードルを乗り越えていく。2人のために法廷の扉は再び開くのか。仮釈放された1996年秋から再審公判が始まった2010年夏までのショージとタカオの14年。仮釈放のとき、心はまだ青年だった2人は、14年の歳月の中で、それぞれ大きな変化をとげていく。

裁判ってナンダ? 人権ってナンダ? ショージとタカオという2人のサイドから見つめる。

BOOK/書籍

ドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」について、
そして映画の主人公、桜井昌司さんと杉山卓男さんをもっと深く知ってもらうために

『ショージとタカオ』著:井手洋子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

当時としては画期的だった小型のデジタルカメラを携えて、二人の暮らしに密着して見えてきたものとは何だったのか。獄中29年という大きなブランクを経て社会で暮らす厳しさ。時に珍言で笑いを誘い、ひょうひょうと生き抜いていくように見える二人が抱える心の傷。
二人はなぜ犯人にさせられたのか‥‥無期懲役、死刑判決を下された事件において再審が実現するのは非常に難しいという。そんな中、戦後7番目に再審無罪を勝ち取ったという、布川事件の法廷での闘いとはどんなものだったのか。決して諦めないショージとタカオ、二人を支援する弁護士や支援者たち。ディレクターの井手が、映画では描ききれなかったことをこの本で語った。

“冤罪コンビ”等身大で描く (朝日新聞「著者に会いたい」コラム記事より)

青春小説のようなタイトルだが、1967年に起きた布川事件という強盗殺人事件の犯人とされ、29年間、拘置所と刑務所で過ごした2人が、仮釈放で出て、“普通のおじさん”として再審無罪を勝ち取るまでの軌跡と、それを著者が自主製作映画にする過程を描くノンフィクションだ。「会うまでは、“29年も人生を奪われた人”というイメージだったのですが、会ってみると暗さはなくてケラケラッと笑って話すし、よく食べる。おふたりとも“生きる力が強い人だな”と思いました」 井手さんはフリーの映像ディレクター。94年、2人の支援の催しの撮影を依頼され、興味を抱いた。桜井昌司氏と杉山卓男氏。20歳と21歳で逮捕され、社会に戻ったのが49歳と50歳。彼らはどうやって暮らしを営んでいくのか。当初は等身大の彼らをとらえようと取材した。工事現場で働いたり、狭い部屋で自炊したり、仕事が決まらずやきもきしたり、彼女ができたことを照れた様子で話したり。井手さんが伝える2人の姿は、まだ青年のようでもあり、読者にも身近な存在に感じられる。同時に、そんな日常が奪われていた彼らの人生を想像させる。そうして無実を訴え続ける2人を追ううちに、井手さんの関心は司法の現状にも広がる。数カ月の取材予定が、結果的に14年に。「創作の孤独に耐えかねて、逃げたくなったことも」。映画の完成まで気持ちをどう持続させればよいか悩んだ心境もつづられていて、ひきこまれる。時間とお金を捻出して完成させた同名の映画は昨年、数々の賞に輝いた。本の帯の「めげない、あきらめない、立ち止まらない」というコピーは“冤罪(えんざい)コンビ”にも、著者の井手さんにもよく似合う。

(記事のオリジナルはこちら)

STAFF/スタッフ

井手洋子

井手洋子

九州・佐賀で育つ。明治学院大学文学部卒。卒業後、紆余曲折を経てドキュメンタリー映画の世界へ。1985年にドキュメンタリーの大先輩羽田澄子監督と出会い、『安心して老いるために』『歌舞伎役者・片岡仁左衛門』などに助監督として参加。現在はフリーランスの映像ディレクターとして、企業PRを中心に活動。手がけた作品は120本以上。育休中のお父さんの暮らしから先端技術の研究室まで日本の様々な「人」「現場」をカメラで眺めてきた。「ショージとタカオ」は、日々の仕事の傍ら自主制作。

「仕事 君はどう思う?」(東京都/岩波映像 2005年・産業映像祭 文部科学大臣賞/教育映像祭 文部科学大臣賞)、「東京のモダニズム建築 学校篇」(BSフジ/紀伊国屋、ポルケ 2009年・教育映像祭 文部科学大臣賞)などなど。自主作品関連として『教科書裁判 歴史の法廷で裁かれるもの』や川崎の路上生活者を描いた『川崎越冬1995~1996』。

西尾清(撮影協力)

東京、北区生まれ。寿司屋の三男として育つ。東京写真短期大学を卒業後、岩波映画製作所に入社。産業映画やドキュメンタリー映画など数々の作品に関わる。同じ岩波映画出身の羽田澄子監督の作品の多くを担当してきた。

これまでの主な作品として、『薄墨の桜(1977)』『早池峰の賦(1982)』『薩摩・盲僧琵琶(1984)』『痴呆性老人の世界(1986)』『安心して老いるために(1990)』『歌舞伎役者 片岡仁左衛門』『住民が選択した町の福祉(1997)』『あの日この校舎で 五十年前に被爆したナガサキの記憶(1997)』『問題はこれからです 続住民が選択した町の福祉(1999)』『終わりよければすべてよし(2006)』などがある。

久保田幸雄(整音)

1932年生まれ。54年 福岡県大牟田生まれ。九州大学工学部電気通信科を卒業後、長崎放送入社。録音部に配属される。その後、岩波映画製作所に入社し、録音技師として活動。そこで演出部の羽仁進、黒木和雄、土本典昭、小川紳介等と出会い、64年には岩波映画を退職しフリーとなる。以後劇映画からドキュメンタリーまで幅広く活動してきた。1978年『サード』にて毎日映画コンクール録音賞、1993年日本アカデミー賞優秀録音賞を受賞。

その他に『巨船ネスサブリン』『パルチザン前史』『1000年刻みの日時計 牧野村物語』『深い河』『スカベンジャー 忘れられた子供たち』『父と暮らせば』『実録・連合赤軍あさま山荘への道程(みち)』『キャタピラー』など多数の作品に携わっている。

寺島琢哉(音楽)

1962年8月18日東京生まれ。 都内ライヴハウスで音楽活動を開始後、渡米。(NYに7年間滞在)

Mannes college of Music入学。ジャズ・ヴォーカルと作曲を学ぶ。ジャズ・シンガー、ジミースコットに師事。Mannes College of Musicを卒業後帰国。フリーの作曲家として様々なCM、映画音楽を手がける一方で、 ジャズ、ブルース・シンガーとしてライヴ活動を行っている。

自身のソロ・アルバムが2011年5月に発売予定。映画の音楽では、ドキュメンタリー映画『自転車でいこう』を担当。

スタッフ

監督・撮影・編集・制作: 井手洋子
撮影協力: 西尾清・藤江潔・岡田文彦・西島房宏・須藤恵司・相馬健司
音楽: 寺島琢哉 選曲:黒澤道雄 整音:久保田幸雄
制作協力: 原田真志(イラスト)・長谷川玲・水野嘉女・林昌幸
編集協力: 長島光男・江口洋二 MA:協映
配給:「ショージとタカオ」上映委員会 2010年/カラー/デジタル/158分

協力

布川事件 桜井昌司さんと杉山卓男さんを守る会
布川事件弁護団
佐藤光政さん・藤井ゆりさん・伊藤叔さん・中村均さん
佐野洋さん・田口孝夫さん・中村伸郎さん・安田文夫さん・中田宏さん

SHOJI AND TAKAO/ショージとタカオ

ショージ(桜井昌司)

ショージ(桜井昌司)
建設作業員 1947年1月24日生まれ/水瓶座

『明るく楽しく』をモットーに戦い続ける男。栃木県塩谷郡塩谷村に生まれる。ショージはおしゃべりがうまく、作詞作曲もこなすし、歌もうまい。

杉山卓男(タカオ)

杉山卓男(タカオ)
造園業 1946年8月23日生まれ(2015年没)/乙女座

180cmの大男。ショージとは対照的に物静かだが、女性の扱い方はうまい。その一方で、何よりも家族思いで良きパパとしての一面をもつ。

ABOUT THE FUKAWA CASE/布川事件について

布川事件について

1967年(昭和42年)6月30日朝、茨城県北相馬郡利根町布川で独り暮らしの男性が自宅で殺害されているのが発覚。警察は2人組という推定をもとに強盗殺人事件として捜査を進め、同年10月に別件逮捕された桜井昌司さんと杉山卓男さんが、警察の取り調べで殺害と現金10万円を強奪したと「自白」。
裁判で2人は無罪を主張したが、最高裁で1978年に無期懲役が確定。83年獄中から再審請求するも92年最高裁は棄却。拘置所と刑務所、通算29年間囚われ、96年相次いで仮釈放となった。
仮釈放後も再審請求し、2009年12月に再審が決定。翌年7月再審公判開始。2011 年5月に判決。無罪となる。

「布川事件」の詳細についてはこちらもご参照ください

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